続「10万人の宮崎勤」伝説はどこまで真実か

どこに10万人の宮崎勤がいたのか?

http://www.jarchive.org/journal/2008/07/miyazaki10.html

紹介するのが遅くなりましたが、私の記事*1など受け、文献資料を交えた上で

「10万人の宮崎勤」発言についての考察をまとめた記事があったので紹介します。


それによると、コミックマーケットの会長(当時)である米澤嘉博氏が

別冊宝島104 おたくの本』(1989年 宝島社刊)の中で、

コミケットを、一部のマニアによる秘密の会合のようなつもりで取材に来たマスコミは、秘密というにはあまりに巨大なその数に驚いて帰っていった。ここに十万人の宮崎がいると書いたマスコミもあった。

と言及しています。

そして、ある説にたどり着きます。

2005年に刊行された『コミックマーケット30'sファイル』中の「宮崎事件とオタクバッシング」と

いうトピックに1989年8月21日の埼玉新聞の記事が引用されており、その中には

「10万人が集まったコミケ会場の中の一人だった宮崎、幼女を殺害した彼と、他のビデオ・アニメファンとの違いは何だったのか…

という文面があります。これが米澤氏が言う「10万人の宮崎勤がいると書いたマスコミ」だという

推測が成り立ちます。


しかし、奇妙なことに米澤氏が阿島俊名義で書いた『漫画同人誌エトセトラ'82-'98』(2004年 久保書店刊)

で加筆されたコラムには、

コミックマーケットの会場には、多くのマスコミが押し寄せ、無遠慮に参加者にマイクを向け、この場を知ろうとする意思もなく、単純な図式による裁断を行なおうとしていたのだ。「ここには、10万人の宮崎勤がいる」というコメントを加えたTV局もあった。

となっており、前掲のの宮崎勤事件直後の文章より具体的になっています。何故でしょう?


別冊宝島358 私をコミケにつれてって!』中のにしかた公一氏や筆谷芳行氏らが、

「10万人の宮崎勤がいます」と言ったそうだとコメントしており、

「10万人の宮崎勤」伝説がコミケの幹部スタッフに信じられていることがわかります。

結局、私よりも踏み込んだ方でさえ、テレビ説の起源を見つけることは出来なかったそうです。


俗に言われ、多くの方に信じられているような「10万人の宮崎勤」伝説と比較すると、

かなり不可解な点があります。米澤氏のコメントが新しい方が具体的になっている点もそうですし、

第一、東海林のり子ほどの有名人がコミックマーケットの会場にいたら絶対に目立ちます!

必ず多くの人々の目に留まるはずです!

それに東海林氏がその場にいたら、米澤氏が「ここに十万人の宮崎がいると書いたマスコミもあった。」と

抽象的に書くはずはないでしょう。東海林氏でなくてもワイドショーのレポーターがコミケに来ていたら

「レポーターの○○が『10万人の宮崎勤がいます』と叫んだ」という話がその日のうちに米澤氏の耳に

伝わり、曖昧性の残る余地はほとんどないでしょう。

どこのテレビ局のカメラが会場に入ったかを準備会は把握できるでしょう。

もし、そのようなことが実際に起これば、最終日の集会あるいは拡大準備集会でも話題になることは必至でしょう。

1989年12月に発行された本ですから、その1ヶ月ほど前に米澤氏は原稿を書いているはずなので、

実際にテレビレポーターが「10万人の宮崎勤がいます」と発言していたなら当然ご存じでしょう。

それに、誰かがその問題の動画を持っていれば、ファイル交換ソフトや動画投稿サイトなどを通じ、

幅広く動画が流通するでしょう。

よって、私はテレビ説には懐疑的です。


商業出版されている出版物であれば、ほとんどの本は国会図書館に行けば閲覧することは可能です。

国会図書館ほどの品ぞろえはありませんが、雑誌記事は大宅壮一文庫で探した方が見つけやすいでしょう。

しかし、テレビは勝手が全く違います。

過去のテレビ番組を見ることができるのは、放送ライブラリーNHKアーカイブスなどの施設がありますが、

見ることができるのは一部の番組にすぎません。

コミケ準備会がそういう構想を持っているそうですが、同人誌を保管している図書館があるという話も

聞いたことがありません。*2

結局、真実はどうなのかを追求するのは極めて困難なようです。

米澤氏の記憶の謎を推測してみる

普通、人間の記憶というものは最初の方が具体的になるはずです。

にも関わらず、米澤氏のコメントは宮崎勤事件直後の1989年よりも、2004年に書かれたものの方が

具体的になっています。何故でしょうか。

私は、虚偽記憶であると推測します。


虚偽記憶というのは、得てしてショッキングなものが多いと言われています。

「抑圧された記憶」と強引な催眠療法で、あなたは幼少期に虐待されたとか強姦されただとかいう

非常にショッキングな記憶を脳に植え付けられた結果、「虐待した」、「強姦された」などとされる

人物(特に家族)が身に覚えのない虐待で訴えられるという事件がアメリカで相次いでいるそうです。


「ここに10万人の宮崎勤がいます」とテレビレポーターに叫ばれるというのは、

コミックマーケット主催者にとって大変な屈辱で非常にショッキングなものでしょう。

故に、「ここに十万人の宮崎がいると書いたマスコミもあった。」という、

埼玉新聞の記事が出展とされる曖昧な記憶が一挙に具体され、その結果として

「ここには、10万人の宮崎勤がいる」というコメントを加えたTV局もあった。

とい記憶が定着したものだと私は推測します。

米澤氏はじめ、コミックマーケット準備会のトップなどの皆さんも

曖昧な記憶だったものが、ショッキングな噂や伝聞を聞き、

それを真実だと(本当に真実かどうかは定かではありませんが)思ったのではないでしょうか。


虚偽記憶」と言いましたが、本来であれば語弊を招きかねない言葉です。

「実際に起きていないはずの出来事に関する記憶」と書くと長いので、

敢えて「虚偽記憶」としました。

「10万人の宮崎勤」発言が事実だとしても虚偽記憶でないと断言することも、

その逆も不可能なので、あしからず。


米澤氏、他の皆様には大変失礼かもしれませんが、記憶というものの奥深さに興味を持ち、

この文章を書きましたのでご了承ください。

結局、どこまで真実か

私には実際のところは分かりませんが、

埼玉新聞の記事や、他のいくつかのメディアでの報道がいくつも重なり合い、

虚実入り混じった結果、コミケ参加者らを中心に「伝説」が流布し、

その後、米澤嘉博氏をはじめとしてコミケ幹部も信じるなどして、

「具体的な事実」として広まったのではないかと推測します。


動画サイトで実際の映像が流れていないことなどを考えると、

東海林のり子氏が会場で叫んだというのは事実と異なると思います。

ただ、「十万人の宮崎勤」という言葉が複数のメディアで取り上げられていることを

考えると、それらのメディアの報道内容から派生したことは確実です、


私のまとめを改めて取り上げます。

・テレビ番組で取り上げられれば、事実の証明は容易なはず

コミケ幹部は「事実」として捉えている

埼玉新聞のように、「10万人の宮崎勤」と報じたメディアは実在したので、

 いずれにせよそこから派生したようだ


というわけです。

時間があれば、大宅壮一文庫国会図書館に行って調べてみたいのですが…

*1:http://d.hatena.ne.jp/slpolient/20080617/1213703855

*2:白樺とかアララギとかそういった同人誌ならあるかもしれませんが…