青少年条例に関する質疑、デマ対策、他県との比較

西沢けいた都議による質問

3月2日、3日に東京都議会の代表質問が行われました。

3月2日の都議会での石原都知事の青少年条例に関する答弁(4:26:30付近〜)によると、

 次いで、青少年健全育成条例の改正に付いてでありますが、 児童ポルノや子どもへの強姦を描いた漫画の蔓延を、 「見て楽しむだけなら個人の自由である」 「如何なる内容であっても表現の自由である」と、許容する事は、これは自由の履き違えで正にありまして、青少年を守り育てる大人たちとしての責任と自覚を欠いた未成熟な人間の自己保身に他ならないと思います。

 また、保護者が幼い子どもを性的写真集の被写体として売り渡す行為も、子どもを使って自己の欲望や利益を満たそうとする大人として親として、卑劣というかあるまじき、下劣な行為であると思います。

 このような児童ポルノや、青少年をみだりに性の対象として、扱う風潮から、 次代を担う青少年を守らなければならないと思います。
この為、青少年健全育成条例を改正し、児童ポルノの根絶と、この種の図書類の蔓延の防止に向けて、都が、都民、事業者と一体となって取り組み、現存のおぞましい状況に、この東京から決別していきたいと、思っております。

と答弁しました。

過激なジュニアアイドルの写真集に、親がそういう代物だと分かって

子供をこのような写真集に出演させる行為が下劣だというのは同意ですが、

他の意見には決して賛成できませんね!!!


3日は、西沢圭太都議会議員が青少年条例の問題に関して質問しました。(4:31:10付近〜)

(都議会動画:http://www.gikai.metro.tokyo.jp/live/video2010-t1.html

たまたま時間があったのでICレコーダーで録音してそれをもとに文章に起こしました。

 最後に、1点だけ今回の定例会に提出されております、青少年健全育成条例の改正案についておうかがいします。
 青少年が被害者となる悲惨な児童買春や虐待などの行為を野放しにしていいわけがありません。また、青少年の健全な育成に向け有害な情報の氾濫を防がなければなりません。

 こうした中で今回の改正案には規制の対象となる図書類等について、青少年をみだりに性的対象とする雑誌や漫画が秘密化されており、その定義の中で「非実在青少年」という新たな概念が盛り込まれております。

 「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」これを「非実在青少年」というようでありますが、青少年を描写した漫画やアニメの事を指すと思われます。

 過激な表現や描写がされている物は当然規制すべきかと思いますが、こうした新たな概念が具体的にどのようなものか明確ではなく曖昧です。解釈のしようによっては青少年を描写した漫画やアニメのほとんどが適用されてしまうのではないかと懸念を持つ方もいます。

 その他、実はですね、有害かどうかを行政が判断することになることには慎重な意見もあります。国での議論がこれから進めている問題ではありますが見解をうかがいます。

これに対する、青少年・治安対策本部長の倉田潤氏の答弁が以下の通りです。(4:42:15付近〜)

 青少年にかかる漫画等の規制についてでありますが、今回の青少年健全育成条例改正案に関しては、漫画等において明らかに青少年として表現されているものを『非実在青少年』と定義した上で、その性交または性交類似行為にかかる姿態を正当な理由なく性的対象として肯定的に描写した漫画等について、青少年に対する販売等の自主規制、不健全図書の対象に追加しようするものであります。これはこのような漫画等を青少年が閲覧することにより、青少年の健全な性的判断能力の形成を阻害するおそれがあることによるものであります。
 従いまして、単に子供やその裸の描写が含まれる漫画やアニメを規制するものではなく、また広く成人に対する流通一般を規制するものでもありません。

 なお今条例には、昭和39年の制定当時から青少年が閲覧することでその性的感情を刺激するなど、青少年の健全育成を阻害するおそれがある漫画等について青少年の目に触れないようにするための規制が設けられております。
 具体的には、出版関係者による青少年への販売等の自主的な規制を基本としつつ、著しく悪質な物に限り青少年健全育成審議会に諮問の上、都が不健全図書として個別に指定し、青少年への販売等を制限するものであり、こうした仕組みにより青少年の健全育成を図ってきたところであります。
 今回の改正案につきましても、慎重な手続きを経て運用されることに何ら変化はございません。

Togetterにもまとめましたので、こちらも参考にしてください。

20100303西沢けいた都議の青少年条例に対する質問およびその答弁

http://togetter.com/li/7864

条例案に関するデマを論破

あらためて、条例案を検証して、デマを論破します。

#jipo 速報)18歳未満に見えるアニメ・マンガの単純所持禁止/ネット検閲準義務化の都条例改悪案に対し、民主党東京都議連が反対の立場で東京都・自民党と全面対決の模様!民主・社民・ネット・共産に応援の声を!自民公明に批判の声を!

http://twitter.com/Artanejp/status/9863846507

このツイートの中に、「18歳未満に見えるアニメ・マンガの単純所持禁止」、

民主党東京都議連が反対の立場で東京都・自民党と全面対決の模様!」と書かれていますが

ズバリ、嘘である。

@Artanejp(id:artane)さんはむやみやたらにデマをばらまかないようにして下さい!!


まず、マンガ規制の件について。条例案第7条第2項には、

二  年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの (以下「 非実在青少年 」という。) を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

と書かれており、第8条には不健全図書の対象として、

第八条 知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。
一 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
二 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

と挙げられており、*1また第18条には、

第十八条の六の二 都は、児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項に規定する児童ポルノをいう。以下同じ。)を根絶すべきことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と連携し、児童ポルノを根絶するための環境の整備に努める責務を有する。
2 都は、 青少年性的視覚描写物第七条各号に該当する図書類又は映画等のうち当該図書類又は映画等において青少年が性的対象として扱われているもの及び第十八条の六の五第一項の図書類又は映画等をいう。以下同じ。) をまん延させることにより青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と運携し、青少年性的視覚描写物を青少年が容易に閲覧又は観覧することのないように、そのまん延を抑止するための環境の整備に努める責務を有する。
4 都は、事業者及び都民による児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延の抑止に向けた活動に対し、支援及び協力を行うように努めるものとする。

第十八条の六の三 事業者は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
2 事業者は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、その事業活動に関し、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、他の事業者と協力して、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないようにするための適切な措置をとるように努めるものとする。

第十八条の六の四 何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する。
2 都民は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
3 都民は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないように努めるものとする。

と書かれており、よく読めば蔓延させない機運を作る対象となる青少年性的視覚描写物」は

第7条の規定により不健全図書指定されたものであることはすぐに分かります。

現行法での児童ポルノの定義には創作物は一切含まれていませんし、

石原都知事の答弁を見ると、石原知事が例として

想定しているのが子供を強姦するものであることも分かります。

よって、【コミケ】石原都知事、漫画・アニメ・ゲームの根絶を宣言。【壊滅】

というスレタイは釣り。

ましてや、「18歳未満に見えるアニメ・マンガの単純所持禁止」は

悪質なデマゴーグとしか思えません!!


第一、民主党および生活者ネットは3月3日現在、

この条例に対する方針を決めていません!!

よって、民主党東京都議連が反対の立場」というのも今の時点では誤り。

もっとも、築地市場移転問題などでは全面対決の情勢ですけどね…

他県は東京都より厳しいが、出版業界に対する効果は大したことはない

そういえば、他の道府県の条例はどうなっているのだろうと思い、いくつかの県の有害図書制度を調べてみました。

例えば、大阪府青少年健全育成条例では、

十三条 知事は、図書類の内容の全部又は一部が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該図書類を青少年に有害な図書類として指定することができる。
一 青少年の性的感情を著しく刺激し、青少年の健全な成長を阻害するもので、規則で定める基準に該当するもの
二 青少年の粗暴性又は残虐性を著しく助長し、青少年の健全な成長を阻害するもので、規則で定める基準に該当するもの
三 青少年の犯罪を著しく誘発するおそれがあり、青少年の健全な成長を阻害するもので、規則で定める基準に該当するもの
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げるものは、青少年に有害な図書類とする。ただし、その内容が主として読者又は視聴者の性的感情を刺激するものでないと認められるものについては、この限りでない。
一 書籍、雑誌、コンパクトディスク又はデジタルバーサタイルディスク(以下「書籍等」という。)であって、全裸若しくは半裸での卑わいな姿態又は性交若しくはこれに類する性行為で規則で定めるものを描写し、又は撮影した図画、写真等を掲載し、又は記録するぺージ(表紙を含む。以下同じ。)等の数が当該書籍等のぺージ等の総数の十分の一又は合わせて十ページ以上を占めるもの
二 ビデオテープ、ビデオディスク、コンパクトディスク又はデジタルバーサタイルディスクであって、全裸若しくは半裸での卑わいな姿態又は性交若しくはこれに類する性行為で規則で定めるものを描写した場面が合わせて三分を超えるもの
三 図書類の製作又は販売を行う者の組織する団体で、規則で定めるところにより知事が指定するものが審査し、前項各号のいずれかに該当するとして青少年の閲覧、視聴又は聴取を不適当と認めたもの

http://www.pref.osaka.jp/houbun/reiki/reiki_honbun/k2010487001.html

補足として、大阪府青少年健全育成条例施行規則と併せて読んでみると、

私の印象としては少なくとも東京都の現行条例より定義が幅広いもののように感じました。

大阪府の条例の定義は都条例改正案のものと大して変わらないような気がしましたがどうなんでしょうかね…


大阪府の例からも分かるように、東京都の現行条例よりも厳しい規制を実施しているところはあるんです。

しかし、東京都の場合は違います。

日本の出版社等のほとんどが東京都に集中している上に、Wikipedia:有害図書によると、

出版業界の自主規制ルールとして「東京都の不健全図書(有害図書)として連続3回、もしくは1年間に5回以上指定された出版物(雑誌)は、特別な注文等がない限り取次業者では扱わない」というルールが定められており、そのためこのルールに該当した出版物は事実上一般書店での販売が困難となる。その場合出版社は成人向けに限定した形でアダルトグッズショップや直接販売などの通販・チャンネルで販売を継続するか、もしくは廃刊・絶版するかの選択を余儀なくされることが多い。

また大手コンビニチェーンや書店の中には「前記の取次停止ルールに該当する出版物を発行している出版社の出版物は、有害図書指定されていない他の出版物も含めて一切取り扱わない」という方針を示しているところもあり、そのためコンビニ販売が主力となる雑誌類を抱えている出版社の中には、万が一の事態に備えて成人向け雑誌・書籍部門を別会社として本体から切り離す動きも見られる(例:毎日コミュニケーションズMCプレス。また白夜書房のアダルト雑誌部門がコアマガジンに移管されたのもこの動きに関係していると見られる)。

有害図書に指定された書籍(「完全自殺マニュアル」(鶴見済)など)は、大手や一部の書店で販売されていない。大手書店では有害図書を販売することによるイメージダウンを懸念した結果である。また小さな書店の場合では区別陳列のスペース確保と、年齢認証などの煩雑さなどから取り扱わない場合も多くあり事実上の発売禁止措置、禁書指定に近い。

となっており、東京都の条例による規制が事実上の発売規制になっていることからも

条例が強化されることは非常に問題があるのです。


おそらく、条例が通ってしまったら、いくつかの本やゲームが見せしめ的に、

不健全指定されることでしょう。

不健全指定を担当する東京都青少年健全育成審議会のページによれば,

毎月、3、4冊ほどの本が不健全指定されています。

おそらく条例成立後は、青少年問題協議会で「児童を性の対象とするマンガ」として

槍玉に挙がったマンガなどを中心に不健全指定すると思われます。


条例案の内容や現行条例の運用状況を見る限り、

「青少年を描写した漫画やアニメのほとんどが適用されてしまう」というのは

絶対と言っていいほどないと思いますが、*2

やはり、表現活動を大きく委縮させることは間違いないので、

条例改定には反対だと言わざるを得ません!!

*1:第7条、第8条の各第1項は、現行条例第7条、第8条の規定と同じ

*2:そもそも、現行条例にある基準の方が、「非実在青少年」のくだりより曖昧だと思う…