週刊誌、SPAの特集について
SPA!2008年5月27日号(5月20日発売 扶桑社刊)に掲載された、
『[児童ポルノ法問題]恐怖のシナリオ』について取り上げたいと思います。
詳しく書いてしまうと、買って読む人が減ってしまうかもしれないので、まずは概略を…
まずは、各国における児童ポルノの定義について述べられています。各国ともバラバラで、
統一された定義はないようです。
単純所持禁止に関する海外での冤罪事例もいくつか取り上げられています。
また、
「マンガやアニメに規制が入れば、しずかちゃんの入浴シーンが掲載されたコミックを所持していた場合、
逮捕される危険性も……」
とコマつきで載っています。
推進派の森山眞弓氏、丸谷香織氏、エクパット東京は取材拒否。その中で、高市早苗氏が
取材に応じました。反対派からは吉田泉氏が取材に応じ、合田我路氏や宮台真司氏が
懸念を示すコメントを掲載しました。
冤罪に関しては、痴漢冤罪問題やメルボルン事件を引き合いに出して記事を書けばより良かったと思います。
痴漢冤罪は性犯罪という点で、メルボルン事件は所持が禁止されているもの(ヘロイン)を知らないうちに
持たされたという点で、単純所持規制問題と類似するのではないでしょうか。
松本サリンで嫌疑をかけられた河野義行氏や、痴漢えん罪被害者救済ネットワークに
取材するというのも、一つの手段だったのではないかと思います。
実は穴だらけの単純所持禁止反対論
ただ、論理にいくつか穴があるように思います。
未施行の人権擁護法案と異なり、「児童ポルノの定義が曖昧だ」といっても、
すでに運用実績があるのですから、現状の運用と比較した上で問題点を挙げるべきだと思います。
単純所持が禁止されたところで、児童ポルノの定義が極端に変わるとは考えにくいと思います。
上半身裸になった男性アイドルが摘発されたという話は聞きませんし、なぜ単純所持の対象となるのか
分かりません。仮に児童ポルノになるのであれば、ストリップ劇場と似たようなものになるはずですから、
現行法でも取締りの対象となるはずであり、単純所持とは関係ないはずだと思うのですが…
奥村徹弁護士の記事からの孫引きになりますが、警察が実際に児童ポルノ法をどう運用するかの資料があります。
「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」解説
警察庁生活安全局少年課執務資料(部内用)
平成11年7月12日
警察庁生活安全局少年課
7 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの(第3号)
(1)具体的な例としては、全裸又は半裸の児童に扇情的なポーズを取らせた姿態を描写した写真等が考えられここれが性欲を興奮させ又は刺激する姿態であることが視覚により認識することができるものであれば、児童の性器等が描写されておらず、又はその部分にぼかしが施されているものであっても本号に該当する。
(2)「衣服の全部又は一部を着けないとは、社会通念上衣服と認められる物を全く着用していないか、又は衣服の一部を着用していない状態をいう。これに該当する具体的な例として、全裸の状態や半裸の状態が考えられ、通常の水着を着用している場合にはこれに該当しないと考えられるが、全裸又は半裸の児童の身体の上に、社会通念上人が着用する衣服とは認められないような透明又は半透明の材質により作られた衣しょう等を着用している場合には、「衣服の全部又は一部を着けない姿態」に該当する。
この執務資料は現状における児童ポルノ禁止法の運用状況を示す重要な資料の一つだと思います。
摘発事例や判例・裁判例も運用状況を示す資料なので、それをこの記事に盛り込むべきだったのではないでしょうか?
過激な少女アイドルのDVDが摘発されたときに、「100人中、90何人が児童ポルノと判断しないと摘発できない」と
どこかで見聞きした記憶があるのですが… どうも、摘発したくてもできないというのが現状だと思うのですが…
ですから、日本における現状の運用に対する考慮がされているかが少し分かりかねます。
問題になるのは、現行法でクロになるものではなく、むしろ現状でグレーゾーンになるものや、
それ以上に、現状法ではほとんど気にもとめられていない、子供が裸で水遊びしている写真などについてが、
過去に問題になることがほとんど無かったので気になります。
「単純所持が禁止されると、○○になるおそれがある」という例示は、現状の運用と照らし合わせて、
人々にとって危機感を覚えさせるようなものでなければならず、いきなり「そんなバカな!」と思わせる
極論をいきなり出すと、かえって反対派を増やすことができないのではないでしょうか?
これでは、今まで無関心だった人を反対の方向に持っていくことは難しいのではないかと思います。
反対派が自己満足するような内容では、反対する人や懐疑的な人を増やすことは難しいではないでしょうか?
保守派に対しては、人権擁護法案を引き合いに出すと受けがいいのでは?
ある児童ポルノ法改定に反対する人物が、自民党の岩谷毅衆議院議員に手紙を送ったところ、
岩屋議員は、かの悪名高き人権擁護法案を同様の例に挙げ(さすがです)、美辞麗句の下に新たな人権侵害がはびこってしまう問題点を指摘。言論の自由・表現の自由との線引きは慎重な議論が必要であり、この種の問題は中庸姿勢で取り組むべき……という、非常に冷静で的確なお答えを頂けました。
そうですから、人権擁護法案を引き合いに出したうえで、
「単純所持禁止を朝鮮総連が悪用するおそれがある」、「『児童ポルノ爆弾』としてテロリストに利用される」、
「気に入らない政治家やジャーナリストを抹殺するため、単純所持をでっち上げて現行犯逮捕することができる*1」
といえば、ある程度受けるかもわかりません。 信じてくれればの話ですが…
このSPA!を刊行しているのは、フジサンケイグループで「新しい歴史教科書」を出版した*2扶桑社なのですから…
「マンガ論争勃発のサイト」によれば、「まだまだ先行きは五里霧中」とのことですから
まだ草案もまとまっていないということなのかもしれません。
いずれにせよ、この問題は注視すべき問題であることには変わりはないだろう…
一刻も早く、児童に対する性的虐待や性的搾取がなくなることを願うばかりである。
規制反対派が単純所持禁止に批判的な理由は、趣旨そのものに反対しているわけではなく、
運用に対して猜疑心を持っているからです…
「児童ポルノを見たいから反対」という連中は、反対運動から排除しても構わないと個人的には思います!
NHKの「クローズアップ現代」の特集についても後ほど触れなければならないと思います。
冒頭に出た児童ポルノ被害者の手記を見ると心が痛みます…
一刻も早く何とかしないといけないとは思いますが、表現の自由をはじめ、
国民の自由が大きく損なわれないか、問題点は山積みです…