秋葉原通り魔事件を格差問題で説明するトーンをどうすべきか
犯人が不安定雇用に就いていたことなどから、格差社会と関連付ける論調があるみたいです。
例えば、
相関でいえば若年不安定就労と犯罪との因果関係の方が明らかで、銃刀法改正の前に若年就労対策や派遣業法改正を打ち出すのが先ではないか。
という意見もありますが、相関関係と因果関係をイコールとして捉えているように
思えて仕方がなりません。
銃刀法改正より若年就労対策を急ぐべきだという意見には賛成しますし、
海外では早くから格差社会と関連づける論調もあるが、日本で情緒的な報道とオタク批判、ネット批判、ナイフ規制といった斜め上の展開をみせる能天気ぶりには呆れてしまう。
という見解にも同意しますが、いたずらに格差社会を事件の背景だとする
論調には、違和感を感じざるを得ません。
id:katzchangさんの
派遣労働問題等、改善すべき社会問題が多くあるというのは全く異論はないし、論じる内容について個別に批判するつもりはない。けど、一人の犯罪者が起こした問題を社会の問題に昇華させるのは、十分に慎重である必要があると思う。貧困と犯罪件数が統計学的に関係があるからといって、個別の犯罪の原因とすることはできないはず。
派遣労働問題は犯罪者が出ようが出まいが関係なく改善すべき問題である、くらいの力強さはほしいんだけどなぁ…。
という意見に全くもって異議はないと私は考えておりますし、
また、id:Lobotomyさんの指摘するように、
社会にも原因があるだろうけど、世間でワーキングプアと呼ばれている人間の多くは日々を耐え忍んでいるのだから、今回のような事件は、まだ例外的と言っていいだろう。
犯人には、犯行に至るまでに、犯人独自の、様々な思考、感情、決断が入り混じってたわけで、そういった点を見ようともせず、格差社会が悪い、政治が悪いと自分達の言いたい意見（その意見の正当性は置いておく）に引きつけて語ろうとする構図は、コメンテーターが年少者が殺人を犯すたびに、漫画やゲームに全ての原因を押し付けて規制しろと言う姿に酷似して、あまり見目良いものではない。
といういろいろな背景があることを無視しているという点では、
この事件に便乗してオタクバッシングをするマスコミと、
所詮は同じ穴のムジナにすぎないのではないでしょうか。
加藤智大は不安定雇用や異性にモテないなどといった個人のコンプレックスなどに
悩んだ挙句の果てにこのような凶行に及んだ。
それは、あながち間違っていないでしょう。
だからといって、下手に「格差社会がこの事件の背景だ」という論調を唱えたら
逆に若年不安定雇用者を犯罪者予備軍とみなすことに寄与しかねません。
多くの格差社会の底辺にいる人は苦しいながらも、犯罪に手を染めず
真っ当に生きているというのに！
25歳の短大卒で月30万なんて恵まれていますよ！
大卒の正社員でも月20万もらえない人が多いというのに、甘ったれですよ！
非正規雇用が自己責任の問題だというのであれば、
この事件だって自己責任、個人の心の問題以外の何物でもありませんよ。
ましてやオタクも格差社会も一切関係ありませんよ。
（マスコミとネット論壇の双方に対する皮肉ですけれども…）
リストラされるかもしれないというのは、非正規雇用者だけでなく、
正社員でも同じことではないでしょうか。
特に中年男性なんかそうですよ！
加藤智大を悲劇のアンチヒーローとして神格化し祭り上げることは、
模倣犯を生み出すことにもつながりかねず、断固として反対する。
確かに、彼は格差社会の犠牲者の一人かもしれない。
しかし何度も申し上げたように、彼よりも低い収入で厳しい労働条件で働いているのに、
何一つ事件を起こさずにまっとうに生活している人は大勢いるのです。
事件の背景を詮索すべきではない
格差社会は複雑に絡み合った背景の一つにすぎない。
他にも、歩行者天国、オタク、ダガーナイフ、小泉改革、トヨタ、etc...
これらすべてはこの事件と全く無関係ではあるまい。
そもそも事件に何か一つの背景があるという発想自体野暮なのだ。
もう「犯人」捜しはやめた方がいいと思います。
こういった凶悪犯罪の背景は決して単純なものではありません、
非常に複雑な物があるのでいろいろ詮索するのはもうヤメにすべきです。
結局、この事件に格差社会が背景の一つにあるのは事実だと思いますが、
「格差社会のせいだ」という論調をむやみやたらに唱えるのは、
不安定雇用者をことさら犯罪者予備軍として危険視しかねず、
また、犯人個人の凶悪性を矮小化しかねないのであまり好ましくない。
事件の背景をある一点に求めるというゲームに参加するのは
やめたほうがいいのではないでしょうか。
