児童ポルノ法改正問題とコンピュータウイルス

児童ポルノ画像を勝手に自動的に保存するウイルスと、通報するウイルスがあるそうです。

以前、小寺信良氏もその可能性を指摘していましたが、GIGAZINEも言及しました。*1

ちなみに海外では「保存していたという形跡が残っていた」だけで逮捕されて裁判が起こされて有罪になっているため、「ウイルスに感染しただけなので単純所持にはならない」という主張もどこまで通用するかわかりません。

GIGAZINE前掲記事より

児童ポルノ画像の単純所持がこれらの悪質なウイルスの仕業であることを証明できれば無実になるのでしょうが、どうやって証明すればいいのでしょうか……これまで以上にセキュリティに気をつけないと自分の人生が一瞬のうちにして崩れ去る可能性が大です。

GIGAZINE前掲記事より

GIGAZINEは指摘しますが、その一方で批判も存在する。

ここでの単純所持規制というのは、規制された物がただ単に「ある」という状態そのものを罰するというものではない、というわけである。したがって、『ウイルスに感染しただけなので単純所持にはならない』のである。

http://d.hatena.ne.jp/uemada/20080524


たしかに、id:uemadaさんの指摘にも一理あるでしょう。

法の論理では、ウイルスに感染したという客観的事実を証明できれば単純所持には当たりません。

しかし、「児童ポルノを所持している」という事実は客観的に証明できますが、

児童ポルノを故意に所持している」という事実を客観的に証明することは難しいんです。

人を介するため、客観的な故意である証拠を得ることが可能な売買や受け渡しならともかく、

ネットでダウンロードしただけでは故意か否かを証明するには自白に頼るほかはないんです。

ウイルスセキュリティ会社の人間など、コンピュータに詳しい人ならともかく、

コンピュータの専門知識が無い一般人が巻き込まれたらどうやって故意を証明できるのでしょうか?


自白偏重とも言われる日本の司法では、証拠を捏造しなくても一般市民を犯罪者に仕立て上げる

ことは不可能ではないのです。容疑をかけられた人は悪魔の証明を強いられるも同然です。

裁判になる以前に、逮捕された時点で社会的に抹殺されるのですから、

アル・カイダ北朝鮮工作員などが児童ポルノを用いたサイバー攻撃をする可能性はゼロではないのです。*2


uemadaさんは、以前に

規制反対派がありうる危険としてあげているような極端な事例は、日本の法体系からするとありそうにもない虚像だということがいえるだろう。

http://d.hatena.ne.jp/uemada/20080524

と書いていますが、逮捕された時点で社会的に抹殺することは可能なので、

警察→検察→裁判所を経て無罪を勝ち取っても、名誉を回復することは極めて困難です。

違法という結論が出るのは裁判所ですが、それまでの段階で違法だと一方的に決めつけられること、

拘留期間が長い日本の刑事司法システムの問題点があるから、単純所持禁止の反対論が起こるのです。


GIGAZINEは、前掲記事で児童ポルノ通報ウイルスについて、

このウイルスの挙動が正しいと感じてしまうのであればそれはかなり危険です。というのも、「目的は手段を正当化する」のであれば、それこそ何をやってもいいという話になり、いくらでも拡大解釈が可能になるため。そのためにウイルスを作ってばらまくというのであればもう本末転倒も甚だしいわけです。

と書き、その一方で

つまり、このウイルスは児童ポルノ規制賛成派が作成したことであり、彼らは『目的』のためになら『何をやってもよい』と考えている、というような主張をしている。しかし、真実は、ここまでみて来たことからするとGIGAZINEの見立てとは逆であり、規制反対派があえて人の不安を煽るように上記のウイルスを作ってばら撒いたというのがそうではないだろうか。

http://d.hatena.ne.jp/uemada/20080524

とuemadaさんは書いていますが、 GIGAZINEさんともども、陰謀論な考えだと思います。

少なくとも私は、児童ポルノ保存ウイルスは愉快犯が作ったもので、誰かを陥れるための物ではなく

通報ウイルスは、Antinnyなどに代表されるようなファイル交換ソフトウイルスと同じように、

歪んだ正義感を持った愉快犯が作ったウイルスだと思います。


ですから、これらのウイルスが規制派、あるいは反対派の仕業だというのは陰謀論も甚だしいと思います。

どちらも、単なる愉快犯によるものだと考えれば陰謀論を持ち出すまでもなく、きれいに説明できると思います。


余談ですが、児童ポルノ禁止法改正問題だけにとどまらず、

賛成派は自説を正当化させる「証拠」しか提示しないし

反対派も自説を正当化させる「証拠」しか提示しない

賛成派も反対派もこれを自覚していただきたいと思います。


単純所持を禁止したら児童に対する性犯罪が減ったという

海外の事例をぜひとも知りたいと思います。

もっとも、海外の運用が全く問題なかったとしても日本で通用するわけではありませんが…



あと、創作物規制反対派は意見広告を作るべきだと思います。

資金はどうするかという問題がありますが、カンパの他にも方法があります。

行列のできる法律相談所』でカンボジアに学校を建設するために、

多くの芸能人や有名人が絵を描いて、オークションに出品しています。

芸能人には趣味で絵を描いている人が多いので上手な方も多くいることもあり、*3

高い値段がついたものには数百万円もの値がついたほどです。


村上隆氏のフィギュアに16億円の値がついたそうですし、

賛同する創作者たちが出品し合ってオークションを開催すれば、億単位の資金を集めることができ、

数回で5大新聞全紙に意見広告を掲載できるだけの資金が集まると思います。

*1:http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080523_mellpon_noped/

*2:イスラム原理主義イデオロギーならポルノを使う手口は絶対にあり得ないだろうが…

*3:漫画家やイラストレーターも参加していますし、未登場ですが八代亜紀も画家として活動し、ル・サロン展に5年連続で入選しています。