単純所持禁止、与党案完全にまとまる

ネット上の児童ポルノ、"持っただけ"で懲役刑も - 自民党案まとまる

http://journal.mycom.co.jp/news/2008/06/06/021/

ついに正式にまとめたみたいですね。

自民党議員立法案の正式名称は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案」。6日にまとめられた同案では、ネット上の児童ポルノなどに関し、販売や提供目的でなく、性的好奇心を満たす目的で単純に所持する場合も禁止。さらに、違反した場合は1年以下の懲役か100万円以下の罰金を科す。

また、児童ポルノの拡散を防ぐため、ISPなどのインターネット事業者に、協力を求めることも明記した。

前掲記事より

ただ、政局が波乱含みということもあり、民主党との調整が困難で8月下旬にも

開会される臨時国会に持ち越されそうな情勢のようです。


児童ポルノの拡散を防ぐために、インターネット事業者に協力を求めることは、

歓迎すべきことなのではないかと思いますが、

単純所持に関しては問題点がいっぱいあるので、非常に懸念すべきことです。

いまだに問題点を解消する具体的な策は一切提示されていません。

また、この記事では創作物規制に対する調査研究をどうするかには言及されていません。

これでは、今度の改定の時に創作物規制が行われるのではないかと危惧せずにはいられません!


ただ、反対論にも若干引っかかる所が無いわけではありません。

盗聴法と呼ばれた通信傍受法だって、杞憂に終わったではないか?

たとえそれが精神病患者の妄想だったとしても、「私は国家に盗聴を受けている」という

主張を反対派が聞けば、たちまち騒ぎ立てたことだろう。

住基ネットも、今のところは個人情報の流出や国民監視には至っていない。

小学生殺害事件があった奈良県では、いち早く13歳未満のポルノに対する単純所持に対し

罰則を設ける条例を成立させましたが、冤罪が起きたという話や、

不当逮捕が起きたという話を少なくとも私は寡聞にして存じません。


今まで問題視されてきた法案はたいてい杞憂に終わっているのです。

しかし、やはり心配なので現在議論されている内容には反対なのです、

現行の児童ポルノ禁止法の運用は、いろいろ問題点が無いとは言えませんが、

うまく行っているのではないかと思います。

ただ、単純所持を禁じるとなると、日本では未知のものであり、また海外でも

多くの冤罪事例があるという事実があるなどすることから、

運用に対する不信感は決してぬぐい去ることはできないのです。



ある日、突然逮捕されるかもしれないと思うと誰だってぞっとしますよね?

ある日、誰もが性犯罪者のレッテルを貼られるかもしれないと思うとぞっとしますよね?

ですから、私は今の段階では単純所持規制に反対です。


またこの問題は、10年間まともに議論してこなかったツケが今になって

回ってきたのではないかとも思っているのです。


何で今まで議論に議論を重ね、児童を性的搾取から救う手立てと

国民の自由を侵害しない厳罰化の方策を考えてこなかったのでしょうか?

それは、別の意味で単純所持より恐ろしいことなのかも知れないと私は思います。


本文より長い附則 現行児童ポルノ法における定義の考察

この問題に関心がある人は絶対に頭に入れておかねばならないことですが、

現行法では児童ポルノの定義を、

第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。

(中略)

3  この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

と定めています。

この中でもっとも曖昧なのは、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって

性欲を興奮させ又は刺激するもの」という、いわゆる3号ポルノです。

もっとも現行の運用では、「衣服の全部または一部を着けない」というのは、

全裸又は半裸等社会通念上公衆の面前で人が着用しているべき衣服を着けていない状態を

指すのであって、通常の水着を着ている状態では全く問題が無いでしょう。*1あと、

「性欲を興奮させ又は刺激する」というのは、だれの性欲を興奮させ刺激するということであるのかが問題になりますが、これは「一般通常人」が対象になります。一般通常人が興奮しない(と裁判所が判断する)なら三号ポルノではありません。

(中略)

逆に三号ポルノにあたる例として「全裸または半裸の児童に扇情的なポーズをとらせた姿態の描写」が挙げられています(参議院会議録情報 第145回国会 法務委員会 第8号)。これは性器などの描写がなくても、ぼかしをかけてあっても、です。*2

http://d.hatena.ne.jp/rna/20040915/p1 より

ですから、単純所持禁止問題の議論で槍玉にあがる、お風呂に入っている写真や裸で水遊びしている写真などは

児童ポルノに該当しないというのが一般的な考えではないかと思います。

ですから、単純所持禁止問題を除いてはそれらが児童ポルノか否かというのはつい最近まで問題なかったわけです。

(自分の子どもがお風呂に入っている写真や裸で水遊びしている写真を友人や親戚に配って

 摘発の対象となったという話は少なくとも私は存じません。)

そもそも摘発の対象として議論されたことすら無いのではないでしょうか。

おそらく、そのため単純所持禁止の問題点としてあげられるものはないかと思います。


奥村徹弁護士は、「同一の画像を医学書に収めれば、学術写真になり、エロ本に収めれば児童ポルノとなるというのはおかしいわけです。」

とおっしゃりましたが、私はそうは思いません。警察や検察、裁判所がどのような見解をお持ちかは

わかりませんが、児童ポルノか否かは文脈などを総合的に見て判断すべきです。

その代表例が、テレビに出てくる子ども(特に男児)の裸なのではないでしょうか?


少なくとも、テレビ番組の制作者はポルノを意図して子どもの裸を撮っているわけではありません。

これが問題になるのは、第一にそれを見て不快になる人が少なからずいること、

そして第二が児童ポルノに転用されかねないということなのではないかと思います。

だからこそBPOは児童の裸を写すことに対し注意喚起をしたわけです。


テレビ番組の製作者が書類送検されたという話は聞かないので、現状ではテレビで写る

子どもの裸が児童ポルノに該当すると判断された例はないように思われます。


現状の運用から見ると、文脈などから児童ポルノか否かを判断しているように思います。

これが児童ポルノ問題をややこしくしているのかもしれません。

*1:極端に生地が少ない、もしくは薄い場合、あるいは赤外線で透視した場合はその限りではない