「10万人の宮崎勤」がまた話題になっているので、改めて書かなくては…

id:y_arimさんのはてなハイクでの

 別冊宝島104『おたくの本』(1989年12月24日発行、1990年2月10日第3刷)の米沢嘉博コミケット 世界最大のマンガの祭典!」より。「マスコミとコミケット」という一節(83p〜84p)。
 
(ここから)
 
 TRCでの三回の開催の後、また晴海に移ったコミケットは、三館を使用し、二日間開催という、巨大なものに脹れあがっていた。八九年夏のコミケット36には一万サークル、十二万人近い参加者が集まったのである。――しかし、そこには好奇の目を持ったマスコミ、テレビ局が次々と押しかけた。その三日前に、幼女誘拐殺人の容疑者宮崎が捕まり、彼がアニメファンであったことにマスコミは飛びついたのだ。
 
 テレビ局の取材の最後にはつねにこうつけ加えた。
 
「何が宮崎を作ったかと、強いていうならば、それはテレビでしょう」と。
 
 日本中をおおう戦後世代は、ほとんどがメディアによって育てられた疑似体験世代であり、人を物として見、扱う視点は二〇世紀の近代科学合理主義のたまもので、誰が悪いかというならばダーウィンにまでさかのぼらなければならない。さらに、何が恐いかというならば、あなたのなかの、そしてぼくたちのなかにある宮崎的部分であって、彼はそれを自覚させるために現われた啓示であるのかもしれない。もし、そう尋くあなたが、宮崎の行為に本当に恐怖を感じているならば、それは自分のなかにあるものが恐ろしいのであって、そうでなければ、人の痛みがわからないということで、あなたの言う宮崎とあなたは同じである。
 
 だが、そうした発言はすべてカットされ、放送されることはなかった。
 
 コミケットを、一部のマニアによる秘密の会合のようなつもりで取材に来たマスコミは、秘密というにはあまりに巨大なその数に驚いて帰っていった。ここに十万人の宮崎がいると書いたマスコミもあった。しかし、同人誌に関わる人間はその何倍もおり、マンガやアニメを個人的に楽しむ層がさらに何百万人もいること、そして、そのアニメを放送するのはテレビ局であり、ホラーブームだ、スプラッターだ、ロリコンだ、アクションカメラだ、と祭りあげ、その気にさせていったのは、マスコミそのものである、とは誰も言わなかった。
 
 やがてそれは、メジャー出版対マイナー出版(『アニメージュ』と『OUT』、『少年ジャンプ』とロリコン誌)、テレビとビデオの暗闘となり、結局、弱い者が殺されていった。その図式は、見事に、あの事件とも重なるのである。
 
(ここまで)
 
 最近の表現規制をめぐる状況を考えると実に示唆に富む文章なのだが、今ではほとんど都市伝説扱いの「十万人の宮崎」がこの時点(少なくとも89年8 月〜12月)で、当時のコミケ代表によってはっきりと記されているのは注目に値する。というかぼく自身今まで気づかなかった。古本屋で購入して半年以上経つのに。
 
 やはり事実として、そういう発言をしたメディアが存在したのだろうか? コミケ代表としてマスコミへの応対に追われた当事者の米沢氏が、事件直後にこんなところでデタラメを書くとも思いがたい(『書いたマスコミ』という表現が気になる。現在流布している話としては、TBSのワイドショーで女性リポーター、なかんずく東海林のり子がそう叫んだ http://d.hatena.ne.jp/mickoh/20070414/1176545986 http://anond.hatelabo.jp/20080617153631 というものをよく聞くが、字義通りに解釈するなら、この文言が登場したのはゴシップ誌などの文字メディアということなのだろうか?)。
 
 しかしこれ、手に入れられて良かった。他の執筆者によるコラムも今となっては超貴重だ。

http://h.hatena.ne.jp/y_arim/9234096833783701106

id:lovelovedogさんがy_arimさんのハイクと私が以前書いた記事、

「続「10万人の宮崎勤」伝説はどこまで真実か」を踏まえて、

「10万人の宮崎勤」発言は都市伝説なのか(車輪の再再発明) - 愛・蔵太のもう少し調べて書きたい日記

http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20100731/miyazaki

という記事を書き、その中で私の記事のブコメや他の方の記事にも言及していました。

表現規制問題で、ニュースがあるのも関わらず、私が書くべきネタがなかった*1のですが、

私も改めて記事を書かなければならないと思い、

神保町にある米沢嘉博図書館に行こうとしたら、臨時休館でした。

とにかく、ネット上で手に入る情報を中心に今度記事を書きます。

またの機会に米沢図書館や大宅壮一文庫などで調べてみる必要もあるかもしれません。

*1:書くべきネタは他の人が既に書いてしまっている